‥‥‥』と、私は[#「私は」は底本では「私の」]その意味を捉へ兼ねて訊き返した。
『まあ、どんなにびつくりしたでせう、敬さん‥‥‥』と、お前の母はぢつとその私を見詰めた。
『いや、とうとう腦貧血を起してしまつたぢやないか‥‥‥』と、兄は詰るやうに云つた。
『腦貧血‥‥‥』と、思はず聞き返した時、私の意識にはすべての經過がはつきり蘇つた。そして、手術室にゐるお前の事がぎくりと思ひ出されたのだ。
『あの、藤子は、藤子はどうしたんです‥‥‥』と、私は叫んだ。
『ふむ、今濟んだと云ふ知らせがあつた。大變巧く行つたらしい‥‥‥』と、兄は落ち着いた調子で答へた。
『巧く行きましたか‥‥‥』と、云ひ返した時、私はがくりと重荷を下したやうな心の安らぎを感じた。そして、窓臺に頸を凭せかけながら眼を瞑つた。
『ほんとにお前のお蔭で餘計な人騷ぎをした‥‥‥‥‥』
『それでもまあ直ぐ鎭まつて、ようございましたね‥‥‥‥』
『それもさうですが、ほんとに云はんこつちやない‥‥‥』と、兄は幽かに舌打ちした。
私は深く息を吸つた。そして、明け放した正面から窓の方へ流れてくる涼しい風に吹かれながら、ぢつと口を噤んでゐ
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