靴《ぐんたいぐつ》で大地《だいち》を踏《ふ》みつけた。「中根《なかね》はあの時《とき》、自分《じぶん》の身《み》の危急《ききふ》を忘《わす》れて銃《ぢう》を高《たか》く差《さ》し上《あ》げて『銃《ぢう》を取《と》つてくれ‥‥』と、己《おれ》に向《むか》つて云《い》つたのだ。即《すなは》ち銃《ぢう》を愛《あい》し守《まも》る立派《りつぱ》な精神《せいしん》を示《しめ》したのだ‥‥」と、軍曹《ぐんそう》は咳《がい》一|咳《がい》した。
「抑《そもそ》も銃《じう》は歩兵《ほへい》の命《いのち》である。軍人精神《ぐんじんせいしん》の結晶《けつしやう》である。歩兵《ほへい》にとつて銃《じう》程《ほど》大事《だいじ》な物《もの》はない。場合《ばあひ》に依《よ》つてはその體《からだ》よりも大事《だいじ》である。譬《たと》へば戰場《せんぢやう》に於《おい》て我々《われわれ》が負傷《ふしやう》する。負傷《ふしやう》は直《なを》る、然《しか》し、精巧《せいかう》な銃《じう》を毀《こは》したならば、それは直《なを》らない。況《ま》してあの時《とき》中根《なかね》が銃《じう》を離《はな》して顧《かへり》みなか
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