犧牲者の一人に違ひない……」と、私は心に思つた。そして、その啜り泣きの聲に惹きつけられながら、默つて膝に眼を伏せた。
長い沈默が互の間に過ぎて行つた。
「然し、御病人の樣子はどんななの?」と、私はやがて靜に訊ねかけた。
「ええ、もう長くは持ちますまい。醫者にかける事が出來ないんですから。――それに第一、私達四人は昨日から何にも食べませんの……」と、女は啜り泣きをこらへながら、途切れ途切れに答へ返した。そして、暫く口を噤んだあと、急に身を顫はせながら※[#「口+斗」、30−5]んだ。「これもみんなあのレエニンのためですよ。――あんな憎い、恐ろしい男はありません。」
痛痛しい反抗の姿だつた。私は思はず顏を反けながら、ふつと溜息づいた。
「然し、君達はどうしてこんな……」と、私はためらひながら云つた。
「聞いて下さい。――みんなお話ししますから……」と、女は涙をぬぐつた。
やがて女が語り出した話はかうだつた。――夫がペトログラアドの近衞騎兵聯隊の一等大尉だつた事、結婚して長女が生れると間もなく革命が起つた事、職を剥がれ、財産を沒收されて親子三人命からがらにペトログラアドを遁れた事、あら
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