なぐれる事につきて、そのひとつふたつを言はむ。某語あり、語原つまびらかならず、外國語ならむのうたがひあり、或人、偶然に「そは、何人か、西班牙語ならむといへることあり」といふ、さらばとて、西英對譯辭書をもとむれど得ず、「何某ならば西班牙語を知らむ、」君その人を識らば添書を賜へ、」とて、やがて得て、その人を訪ふ、不在なり、ふたゝび訪ひて遇へり、「おのれは深くは知らず、」さらば、君が識れる人に、西語に通ぜる人やあらむ、」某學校に、その國の辭書を藏せりとおぼゆ、」さらば添書を賜へ、」とて、さらにその學校にゆきて、遂にその語原を、知ることを得たりき。捕吏の、盜人を蹤跡する詞に、「足がつく」足をつける」といふことあり、語釋の穿鑿も相似たりと、ひとり笑へる事ありき。その外、酒宴談笑歌吹のあひだにも、ゆくりなく人のことばの、ふと耳にとまりて、はたと膝打ち、さなり/\と覺りて、手帳にかいつけなどして、人のあやしみをうけ、又、汽車の中にて田舍人をとらへ、その地方の方言を問ひつめて、はては、うるさく思はれつることなど、およそ、かゝるをこなる事もしば/\ありき。すべて、解釋の成れる後より見れば、何の事もなきや
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