、出色の所なきにしもあらじ、後世いかなる學士の出でゝ、辭書を編せむにも、言海の體例は、必ずその考據のかたはしに供へずはあらじ、また、辭書の史を記さむ人あらむに、必ずその年紀のかたはしに記しつけずはあらじ。自負のとがめなきにしもあらざるべけれど、この事は、おのれ、いさゝか、行くすゑをかけて信じ思ふところなり。
おのれ、もとより、家道裕ならず、されば、資金の乏しきにこうじて、物遠き語とては漏しつる、出典の書名をはぶきつる、圖畫を加へざりつる、共にこの書の短所とはなりぬ、遺憾やらむかたなし。そも、おのれが學の淺き才の短き、この上に多く立ちまさりて、別にしいでむ事とてもあるまじけれど、今の目のまへにてもあれ、資本だに繼がば、これに倍せむほどのもの、つくりいでむは難からじなど、かけておもふ所なきにしもあらず。されど、我が國の文華は、開けつるがごとくみゆれど、いまだ開けず、資金をつひやして完全せしめむには、價を増さずはあるべからず、今の文化の度にては、物の品位に對して廉不廉などの比較は、おきていはず、たゞ書籍なんどいはむものに、そこばく圓といふ金出さんずる需用家の多からむとは、かけても望みえず。さ
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