かった。
「大炊殿、もしここで物争いでもして一人が逃げたとする。それを追うたとすれば、どちらへ向ったもので御座ろうな。足順と申そうか。まァ、それはその時の様子と、人の気の向きでは御座るけれど」
「左様に御座りまする。この境内から西南へ掛けてが、土地では熊取路《くまとりみち》と申しまして、路と申す程の路では御座りませぬが、人の行くようには成っておりまする。が、何分にも難所で御座りまするが、まァそちらへ向くのが足順のように思われまする」
「その先は何処《どこ》かの里へ出られまするか」
「とても人里へは」
 成裕しばらく考えていたが。
「とにかくこれを行く処まで行って見ると致そう」
 一行に村人を加えて、大勢で進んで見た。
「あッ、こんな物が」
 先を切っていた村の者の一人が叫んだ。見ると矢立が落ちていたのであった。云うまでもなく直芳のであった。
 これで一同勇気が出て、かれこれ一里余りも分入《わけい》った時に、また先頭の一人が叫んだ。
「大変だッ」
 そこには古い熊の巣穴があった。その中に六次三郎が、血みどろになって死んでいた。ことごとく刃物の傷であった。
 だが、直芳と小露との行方は、ど
前へ 次へ
全17ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング