なんというても御親子《ごしんし》は御親子であるで、御|記念《かたみ》の脇差を証拠に名乗り出《い》で、御当家に御召抱えあるようにと、その御願いの為にお出向きなされたので、猶《なお》まだ動きの取れぬ証拠としては、御墨付同様の書類もあるとやら。素《もと》よりこの儀造り事ならば、御殿様の御心に御覚えのあろう筈がないで、直ぐ様|騙《かた》り者と召捕られて、磔《はりつけ》にもなるは必定。そんな危い瀬を渡る為にわざわざ三人で来られる気遣いはなく、まぎれもない正物《しょうもの》とは、わしにさえ鑑定が出来るのじゃ」
「やれ、嬉しや、福の神じゃ」
お幸と来ては亭主以上の欲張り女。
「そこで、それ、今の内に、娘のお綾をな」
「合点で御座んす」
気が早い。欲に掛けては呑込《のみこみ》の好い事|夥《おびただ》しいのであった。
こうした欲張二人の間に、どうして美しいお綾という娘が出来たろうか。イヤそれは出来る訳がないので、実は宿に泊った西国巡礼夫婦から金に替えて貰ったので、この娘を看板に何か金儲けと考えていたのが、今度初めて役に立った訳。
「したがこの事は、娘の耳にも入れて置いた方が宜しかろう」
「それもそ
前へ
次へ
全30ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング