紋三という旅役者であった。
 小紋三は丹那の鎮守で、忠臣蔵の早替わりを演じた夜、村の若者に捕えられて、お露と共に縛られたまま、山番小屋の後に生埋めにされたのであった。それが運よく地の底からもがき出て助かったのだという。その復讐《ふくしゅう》を余所《よそ》ながら巡検使に依頼したさに、気が張り切っていたのであったが、その目的を半ばは達したので、熱海の湯の宿へたどりつくと同時に、瀕死の状態になったのと知れた。公然名乗り出なかったは、相対死《あいたいし》にの処罰に落されはせぬかと、それを恐れたというのであった。なお委《くわ》しい事を語り得ずに、純之進に向って感謝の手を合せたまま、はかなき最期を遂げたのであった。



底本:「怪奇・伝奇時代小説選集11 妖艶の谷 他11編」春陽文庫、春陽堂書店
   2000(平成12)年8月20日第1刷発行
底本の親本:「現代大衆文學全集2」平凡社
   1928(昭和3)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:岡山勝美
校正:門田裕志
2006年9月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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