事も出来上ったので一同は一まず飛行器の処まで帰って、晩餐の用意に取り懸った。
やがてそれも出来上って月世界第一回の晩餐会は始まった。
本気で食事をしていた晴次は急に顔を上げて、
「叔父さん。」と博士を呼びかけて、
「桂田さんはどうしたんでしょうねえ。」
「さよう。きっと最先に一人で探検に出かけているのだろうと思う。」
「そうでしょうかしら。僕は何だかこの月世界の中にほかの人類か動物が生存していて、桂田さんは、それに見付かって捕われたんじゃないかと思うんです。」
博士は笑いながら、
「そんな事があるもんか。どうして空気のない処にそんなものが生存して行けるものか。」
と言うと、光雄は横から、
「だって僕らが今こうして生きているようにほかの者だって生きているかも知れないでしょう。」と一本遣りこめる。
「そりゃそうだけれども少なくとも月にはそんな生存したものは一|疋《ぴき》だっていないという定説なんだから、そんな事はあるまい。もう程なく帰って来るだろうから、それよりは飯でもすんだなら吾々の住宅《すみか》をあの洞穴の横に造るんだ。」
「家を? だってどうして建てるんです。材木も何もありゃしないじゃありませんか。」と又晴次が口を出す。
「何もむつかしい事はありゃしない。この飛行器を皆で担いで行くんだ。」
「飛行器を? 五人や六人で出来るもんですか。日本だって人夫が二十人以上も要ったのでしょう。」
「そうさ。しかしお前は今あしこの穴を塞ぐ時にあんな大きな石をコロコロ転がしていたじゃないか。空気のない処じゃ石でも羽根でも重さは同じだ。飛行船だって己《おれ》一人でも持って行ける。」と説明すると、
「そうですねえ。」と感服して、
「それにしても博士を探しちゃどうでしょう。僕らが迎いに行って来ましょうかしら。」
「さようさ。今に皆で出かけよう。」
月のアルプス山に於ける紀念碑
五人は色々な話をしながら食事を終った。暫時《しばし》休息した。
もうここに着いてからかれこれ二十四時間以上にもなるが夜が来ない。絶えず昼で朝も晩も何にもない。
しかしいずれも身体は綿のように疲れているので、シートの上に寐《ね》るや否やぐっすり[#「ぐっすり」に傍点]と寐込んで了った。
かれこれ三時間もたった頃博士はまず眼を醒しほかの者を揺り起した。
「ああ眠い眠い。もう何時でしょう。」
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