ここに奇怪なのは、駈込んだ若者が、一人として無事には出なかった。いつの間にやら行方が不明になった。それは正《まさ》しくその時代の不思議の一つとせられたのであった。
「あッ、又今度の若者も、妾《わらわ》を付狙う黒姫の曲者よ」
 駈込んで来た若者の顔が、高田殿にはいつとしもなく、滝之助の顔に見えるのであった。そうしてその時ばかり狂気の如くなって、守刀で刺し殺されるのであった。その死屍《しし》は古井戸の中に捨てられたのであった。
 寛文《かんぶん》十二年二月二十一日晩方、高田殿は逝去した。天徳寺に之を葬った。天和《てんな》元年には、家断絶。世にいう越前家の本系は全く滅亡に及んだのだ。
 滝之助の怨恨《うらみ》。地下に初めて晴れしや如何《いか》に。



底本:「怪奇・伝奇時代小説選集4 怪異黒姫おろし 他12編」春陽文庫、春陽堂書店
   2000(平成12)年1月20日第1刷発行
底本の親本:「現代大衆文學全集2」平凡社
   1928(昭和3)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:岡山勝美
校正:門田裕志
2006年9月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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