、赤い顔の、あんなのではない。普通の人間で、ちゃんと両親もある、兄弟もある。武州|御岳山《おんたけさん》で生れたんだ。代々山伏だ。俺の先祖は常陸坊海尊《ひたちぼうかいそん》。それから血統正しく十八代伝わっている。長命が多いので、百歳以上まで生きたのが二三人ある。代々夜目が利くんだ。俺は大竜院泰雲《だいりゅういんたいうん》という者だ」
なる程天狗だ。大天狗だ。
「それがどうして一昨年と昨年と、二年つづきで七三郎の仲間を、半殺しの目に遭わされたか」
「当り前じゃあないか。神祭《かんまつり》の際に悪事を働くなんど怪しからん奴等だから、懲らしめのために二年つづきで遣付《やっつ》けてやった。今年で根絶《ねだや》しに致すところなんだ」
「それでは、旗本六人の鼻は」
「や、それは本統に知らん。俺は全くそんな事はしらない。女の臀部を切ったのも全《まる》で知らん。ほかにあるに違いない。俺は暗闇を幸に悪事をする奴を懲らしめるために、毎年下山して来ておるが、どうも去年のだけは見当がつかぬ」
「すると、ほかにあるんだな。何者だろうか」
「や、面白い。どうだ、源八郎。貴様のようなのでも、とにかく夜目の利く一人
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