桃色の月、見上げて、十人のコウカサスの女に接吻する。
 シャンパンおごる私は得意だ。なんと云っても現代は資本主義肯定する。加護のために、私未来のプロレタリア否定する。
 ジャズ・バンド、マルセル・シュオブに似たセロ弾き、グロテスクな洋服師思い出すボンベイの過去、いまではロシアで苦心|惨憺《さんたん》アンナ・ニコロを祝福して、私は最期迄知ってしまう。
 瞬間の嬉びが永遠に悲しみとなってしまう、チャイコフスキーの狂気音楽がかくまで近代を支配する。ワルツ、タレルキンの心臓、ニコロの青蛇のような首抱いて、私は踊る。いまや狂気の沙汰、音楽師、ピアノの波が尼僧呼びよせる。アフリカの砂漠を進出するモスクワの夜の娘、驚歎した私踊りながら黒い両足が、ニコロの太腿を包囲して、混乱した男女の頭脳に、メゾ・ソプラノの鼻歌が巻きついてくる、私ニコロの前に日本紙幣束にして棄ててしまった。
 思えば流行歌。アンナ・ニコロが私を引ずって矢鱈《やたら》に接吻する。愛の聖歌奏でて旋転する夢路たどっているようだ。苦もないアンナ・ニコロ私に身を委せながら。階段、万国の男女が酔いどれてはやしたてる。Aは緑、B C D E Fソ
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