けた。そのたびに手術室に逃げこんでいさぎよく離婚してしまった。
 僕が客間《サルーン》へ出ると、人々は足|角力《ずもう》の競技に耽《ふけ》っていた。踊場では跛《びっこ》の老夫婦が人形を抱いて踊っていた。食堂では角帽の中学生が恋人の女学生の話しをしている。また僕は、卓子《テーブル》の一隅で蛙を食べている知合《しりあい》の旅女優、彼女は僕を見そめると、やってきて僕に囁いた。
 ――本当よ! 妾のテノアは東京へ逃げてしまったんです。彼は皮膚病だったんです。妾も、歌劇団を抜け出すつもりなんです。マネエジャ達は妾の唇について居心地がよくないと云うんです。妾は好色家の妻にだってなるんです。連れて逃げてください。
 あまりに、熱心に僕が彼女と恋の投機に夢中なので中学生たちが冷かすのだった。
 無線電信――六〇六――石碑――W.C
 ――じゃ、間違いっこなし、明朝、練兵場よ。(哲学よ、信頼してもよくって?)
 僕は帽子をとりに化粧室に引返す。すると僕はそこにロップの粗悪な寝顔を見て、廻れ右をすると、彼女の腹部に片足で立上って、そのまま躊躇《ちゅうちょ》なく外へ飛び出した。

 午前八時岡山練兵場出発―
前へ 次へ
全7ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング