下関に着くと、僕はサンヨウ・ホテルの踊場にマダム・ハヤミを迎える。露台《バルコニ》でハヤミは僕を賞讃して、愛を誓った
のだが、翌日、ホテルの僕の部屋、ノックするとYが飛込んできた。
ハヤミのオオケストラ、彼《あ》の人糞。
――君! マダム・ハヤミの奴、大理石の経帷子《きょうかたびら》きこんで昨夜|晩《おそ》く神戸へ行ったぞ、おい、君。女の肉体讃美はよさないか。
――おい。×酒よこせ。僕のタンゴ踊、本場仕込みなのでハヤミは腹痛を起したのだ。Y、僕は粋な香港に未練があるんだ。
空しく、僕は欧洲行の船を棄てて、マダム・ハヤミを追って神戸行急行列車に乗り込んだ。
――おい、君。マダム・ハヤミ、俺も恋していた。彼女の×××送ってよこせ。
――NACH KOBES ×××万歳!
下関駅を列車は離れた。Yが汚れたハンカチを振っている。
数時間後、僕は岡山で下車すると、巡業中の歌劇団のポスターを横眼で見ながら、車を硝子《ガラス》張りの、「金髪バー」の前でとめて、酒杯の中に沈んで行った。すると、肥満した女主人が僕に惚れて煩悶《はんもん》しだした。
頭のよくない調合人は、混合酒の控帳め
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