東京ロマンティック恋愛記
吉行エイスケ
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)魑魅《ちみ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字2、1−13−22]
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僕の同棲者の魑魅《ちみ》子は寝台に寝ころんで、華やかにひらいた脣《くちびる》から吐き出すレイマンの匂いで部屋中にエロテイィクな緑色の靄《もや》をつくりながら、僕のいつもの恋愛のテクニックを眺望しているんだ。
かの女の前身は外人相手の娼婦なので、魑魅子には東洋の古典の絵巻にあるような繊細なこころは、あいにく持っていなかったが、女取引所にあらわれる体温によって花咲いた男性の手管《てくだ》を、侵略に委せて刺青《いれずみ》した、肉体的異国的な地図と感情を失ったエモーションの波、そこに愛情の新らしい鋳型《いがた》を僕は見出すのだ。だから、真紅《しんく》の波紋絹に、かの女の愛の言葉は乗って、
「――………どうかしよって? うん。」
僕は腕時計に幻《あらわ》れる、午後十時半の指針をみて立上る。
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