その力によって北方軍閥の倒壊をまって自己を擁力しようとする陰謀、シイ・ファン・ユウも目的をそこにもっていた。ただ彼女の支那女特有の秘密好きな冷理な性質が秘密結社と革命の企業を愛し、東洋女らしい敬虔《けいけん》さがボルシェヴィキの堅固な道徳に陶酔した。シイ・ファン・ユウが米良に身を委せるときは、彼女は自分の演じているお芝居に有頂天になっているときであった。お互がお互の秘密を公開するのはそれが必要にかられているからで、お互が精神にデジケートする古代ではなかった。
 部屋にかかった時計の色模様の絵画に午前八時の赤い舌が飛出した。レムブルグ美容院の整頓された朝がやってきた。踊場では彼女の女弟子達が運動服をつけて体操を始めていた。米良は香港デーリ・プレスの朝刊をひらいた。そこには共産党の陰謀と云う見出しで、昨夜の夜戦に於て共産軍隊は広東軍官学校を襲い、激戦後、広九鉄道を破壊して汕頭《スワトウ》方面に向けて敗走したが、再び共産主義の煽動《せんどう》によって市内に農民工人を一団にした暴動が勃発して吉祥路《きっしょうろ》の司令部を襲い、公安局その他政府諸官庁に向ったが、軍隊出動して防遏《ぼうあつ》、其
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