の女の皮膚に雷紋の入墨をしたような夜更けであった。
 皺《しわ》だらけの私の寝室をノックする音がして、暗闇から出た女の手が、楕円形の天井をみつめていた私の目前で葡萄蔓《ぶどうづる》のようにからんで、青いリノリウムのうえにMELINSの扱帯《しごき》が夜光虫のように円をつくると、私は断截された濡れた頭髪を腕の中に感じて、いつのまにか恋愛のマッフのなかに、ひとときの安息を求めた。
「――妾、あなたくらい好きな人ないわ。」
 と、チタ子が言った。



底本:「吉行エイスケ作品集」文園社
   1997(平成9)年7月10日初版発行
   1997(平成9)年7月18日第2刷発行
底本の親本:「吉行エイスケ作品集 ※[#ローマ数字2、1−13−22] 飛行機から墜ちるまで」冬樹社
   1977(昭和52)年11月30日第1刷発行
※底本には「吉行エイスケの作品はすべて旧字旧仮名で発表されているが、新字新仮名に改めて刻んだ。このさい次の語句を、平仮名表記に改め、難読文字にルビを付した。『し乍ら→しながら』『亦→また』『尚→なお』『儘→まま』『…の様→…のよう』『…する側→…するかたわら』『流石→さすが』。また×印等は当時の検閲、あるいは著者自身による伏字である。」との注記がある。
入力:霊鷲類子、宮脇叔恵
校正:大野晋
2000年6月13日公開
2009年3月21日修正
青空文庫作成ファイル:
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