のために、彼の商権に致命傷をうけた。必然的に銀暴落の大海嘯《おおつなみ》が全土を襲ったのだ。そのことは弱小資本主義にたいする、巨大な金融資本主義の侵略に過ぎなかったが、このことは銀本位の貨幣制度に永遠の絶望をあたえた。しかしノラは快活に自己の生活を開拓して行った。彼女は百貨店レーン・クロフォードの女店員になった。そこにはアメリカ娘も、英国娘も、そして日本娘も生活のために働いていた。ノラは一階のマーケットで彼女のエロチシズムと薄鼠色の蠱惑《こわく》で商品を粉飾した。だが、漸《ようや》く彼女の生活には貧困が訪れてきた。ノラの棲むフランスタウンの瀟洒《しょうしゃ》なバンガロウも白粉を落さなくてはならなかった。そしていつのまにかノラは支配人、ディー・ダブリュー・クロフォードの妾《めかけ》になっていた。
 没落は、[#「没落は、」は太字]百貨店レーン・クロフォードの株主総会で六七四株を代表するクロフォードは議長席について悲壮な報告をした。即ちレーン・クロフォード半期欠損額九万五千七百六十元四六|仙《セント》、これが填補《てんぽ》は前年度繰越金から二万六千九三元五一仙、株主準備金から二万元、一般準
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