彼女がつぎに撰んだ職業は北西川路《プースーセンロ》のムーン・パレスの踊子であった。そこで彼女はツレブラを踊った。そして金持ちの男とホテルへ。
 瞬間は、[#「瞬間は、」は太字]快楽の結果として恋愛病に罹《かか》る。
 時代は、[#「時代は、」は太字]ノラを歓迎する。彼女はハイ・アライのチャンピオン、テオドラと恋におちた。競犬場番人、黒奴《ニグロ》のアランがノラの男妾《だんしょう》だという評判が街にひろがった。南京路を彼女はアメリカ総領事館書記、ローランド・グリーンと腕を組んであるいていたが、いつのまにか一品香ホテルに消えたと云うものがある。国民党上海駐屯の武官、フ・ハン・パウはノラと恋愛の上昇のために自殺して死んでしまった。もっとも、チャンピオン・テオドラが最近、オドトリアムのハイ・アライに不出場も或は、もしかすると。そう云えば、黒奴アランはひどい下痢のために租界内の赤十字病院に入院したとか。ローランド・グリーンが南京路を跛《びっこ》をひいてあるいていたと云うものがある。いまでは上海はノラによって支配される。彼女の人気が沸騰するにしたがって、ために暑気は加わるばかしだ。
 ノラよ、健在であれ!



底本:「吉行エイスケ作品集」文園社
   1997(平成9)年7月10日初版発行
   1997(平成9)年7月18日第2刷発行
底本の親本:「吉行エイスケ作品集 ※[#ローマ数字2、1−13−22] 飛行機から墜ちるまで」冬樹社
   1977(昭和52)年11月30日第1刷発行
※底本には「吉行エイスケの作品はすべて旧字旧仮名で発表されているが、新字新仮名に改めて刻んだ。このさい次の語句を、平仮名表記に改め、難読文字にルビを付した。『し乍ら→しながら』『亦→また』『尚→なお』『儘→まま』『…の様→…のよう』『…する側→…するかたわら』『流石→さすが』。また×印等は当時の検閲、あるいは著者自身による伏字である。」との注記がある。
入力:霊鷲類子、宮脇叔恵
校正:大野晋
2000年6月7日公開
2009年3月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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