の云うこと、よく分んないわ。」
4 夜が更けて僕が眼覚めたとき、かたわらには腐敗しかかった売笑婦の肉体が萎《しお》れた花のように残っていた。
その肉体の地図に分割された新領土に僕は住んでいる。売笑婦の持つ感覚の楼上から底辺に達する戦場には、資本家の軍隊の残した指紋の遺跡がある。……つまり、売笑婦の蠱惑を戦場の地域に例《たと》えるのに、現今として誰一人、不服はない筈だ。
侵略される肉体の所有者について探究するとき、かの女たちは、そこに帝国主義的な型を持った男性の手管を感じ、軍閥《ぐんばつ》の持つ圧力を、ブルジョアジイの持つ征服にたいする歓喜を衝けるのだ。――ラグビー争闘の場合の靴の跡を刺繍《ししゅう》され、……野球における華美な盗塁と、……水球のときの潜水と、……ミニチュア、ゴルフの墜死と、……ボクシングにおける残酷な、……マットの中の死を。
戦争にたいする僕の幻影のいかなるものかについてはいま語るをさし控えよう。かの女の肉体の地図に戦争の持つ赤手袋を穿《は》めて、僕は他日を約して一先《ひとま》ず退却だ。国際連盟の持つイデオロギイからも、満州の階級性からも、シャンハイをまったく取
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