。それ、ほんと。」と、僕の妻は異彩のある女にたいする興味を外に見せて確めるように云った。
「――うん。最上等の立ち淫売だ。」
「――もし、……そうなら、今夜は君をかの女の恋愛術の中へ預けたいのよ。」
「――うん、御随意だが、君はどうする?」
「――仕事があるのよ。Sデパートに依頼された新衣裳と、R新聞に原稿を明朝までに書いて置かなくちゃならないの。」
「――それで、あの女にはいくら支払う。」「――いくらぐらい必要なの。あの女?」
「――十円とその他、……いくらか。」
夜間の遊覧飛行イルミネェーションで作られたファンタジツクな科学の尻尾、――妻にたいする愛を結びつけて、……。
2 極楽鳥《パラダイツ》の飾りをつけたフェルトの流行とは正反対のグランとツバの拡い帽子を目深《まぶか》にした身装《いでたち》、……流行品店の飾窓に映るかの女の姿態を裸体にするキャバレーの門柱のムーラン・ルージュ。ラジオの音声が、かの女の肉体の下層に忍び込むとき、人々はかの女から、鋪道と化粧塔の匂いを嗅いだ。
「――今晩は。」「――何か御用?」
夜の女の衣裳の背後が社交的に展《ひら》いて、生姜《しょうが》色の皮
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