結構、妾にはそれがだれだか分っているのさ。」
 疑うように女記者が彼女の顔をのぞいた。しかしミサコは冷却した女のようにことばをつづけた。
「あなたにお願いと云うのはね、妾の同業の厚化粧ぐみをね、彼奴《あいつ》たちはどうせろくなことはやらないのさ。」
「まったくですわ。ねえ、マダム。」
「妾は正道をあんたも知っているように歩んでるわ。だからさ。妾はあんたのような正しい心をもった女らしい人が好きなのさ。」
「あら!」
 太田ミサコはとっさに、はにかんだ女記者のまえに二、三枚の紙幣をとりだすと、
「これ、手附さ。あいつ達のネタを一週間以内にもってくれば手附の十倍の報酬を進呈するわ。」
「売りこむのは?」
「××の夕刊新聞。」
 ふたたびミサコは肥大した女を威喝《いかつ》するように女記者に云った。
「あんた、もし裏切るようなことがあれば妾がどんなことをする女か知っている?」
 太く短い女は立あがると、いらいらして部屋を踵《かかと》のない靴であるいた。やがて落ちつきをとりかえすと女記者がこたえた。
「では、さようなら。マダム。」
「さようなら。あんたは、たのもしい方だわ。」と、彼女が云った。
 
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