がらやってきた。手品師のウイルキンスであった。ミサコが無愛想に云った。
「ハロー、ウイルキンス。よくやってこられたのね。」
「かけおちしましょう。ミサコさん。」と、彼がなれなれしくこたえた。
 太田ミサコの顔が瞬間、蒼褪《あおざ》めたが、この計算を愛する女が事務的に男の愛情をためしてたずねた。
「ウイルキンス。約束のもの持ってきて?」
「五百円、たしかに。」



底本:「吉行エイスケ作品集」文園社
   1997(平成9)年7月10日初版発行
   1997(平成9)年7月18日第2刷発行
底本の親本:「吉行エイスケ作品集 ※[#ローマ数字2、1−13−22] 飛行機から墜ちるまで」冬樹社
   1977(昭和52)年11月30日第1刷発行
※底本中の「!」は全て右斜めに傾いていたが本テキストでは「!」を用いた。
※底本には「吉行エイスケの作品はすべて旧字旧仮名で発表されているが、新字新仮名に改めて刻んだ。このさい次の語句を、平仮名表記に改め、難読文字にルビを付した。『し乍ら→しながら』『亦→また』『尚→なお』『儘→まま』『…の様→…のよう』『…する側→…するかたわら』『流石→さすが
前へ 次へ
全23ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング