子を目深《まぶか》にかぶり、ネロリ油の強烈な蠱惑《こわく》的な香をさしてサーカスの女のようなミサコは高慢な夜を感じていた。
夜の界わいを、極度に断截された近代娘《モダンガール》たちが、短いスカートと男のような乳房と新しい恋愛教科書によった独立の精神をもった彼女たちが、キャバレットとバーと夜の百貨店へくりだした。ホワイトマンによって教練された女達のなかにまじって、十九世紀の万国旗に包まれた太田ミサコが船出する。
一刻後、東京劇場の中央の位置に人々は彼女を見出だした。幕間になると彼女は放蕩親爺《ほうとうおやじ》の好色眼と若い男たちの漫然とした不可解な顔と、理智的な侮蔑《ぶべつ》のなかをクジャクのように満開して、奈落から通ずる楽屋へ座頭のヤマジ・マツノスケを訪ねた。マツノスケは彼女を見ると番頭を遠ざけてから云った。
「やあ、奥さん。驚くべき美しさですなあ。あんたはいつでも僕に女性にたいする懐疑を棄てさせますよ。」
ミサコはオペラ・バッグから祝儀袋をだすと彼にわたしながら、
「妾はあんたのお世辞をきくともう夢中になってしまっているのよ。しかし妾は宣伝はわすれないわ。幕間はあんた、場内の視
前へ
次へ
全23ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング