はどうしても度外視することのできない人物であるが、福沢氏の方はそういう専門的の意味からでなく、広汎なる立場から見て、どうしても見逃すことのできないものがあるのである。殊に英、米の文明思想を率先して輸入し、これに反して儒教のような東洋思想を破壊することを努力した人である。いいかえてみれば、支那文明のような当時なお相当勢力を有しておったものを全然根柢からくつがえしてこれに代うるに英、米の新文明をもってしようと努力したのである。時勢も時勢で、ちょうど攘夷の非なることを覚《さと》って一日も早く西洋の長所を学ぼうという社会的要求の切なる際であったからして、福沢の苦心もむなしからず、その効果は意外に洪大となった。昔から「智恵アリトイエドモ勢イニ乗ズルニシカズ」ということがあるが、福沢はよく時の勢いに乗じてその志をなしとげたものといってよかろう。いずれその哲学に関係ある方面のことは追って別に述べることにいたして、中村正直という人のことについて一言しておきたい。この人は敬宇先生として知られているが、元来哲学だの論理学などということにはあまり注意もしないし、また喜ばなかった。殊に論理学などは最もきらいで
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