けれども、あれに較べると、日露戦争はいっそう影響するところが多く、その結果思想界にまで変化を及ぼすに至ったのは怪しむに足らないと思う。もっとも大正年間に入って世界大戦があったからして、これまた非常な変動をもたらしたのであるけれども、世界大戦に先立っては日露戦争がわが日本にとってはながく深刻な印象を与え、非常な影響をわが思想界に及ぼしたのである。それで、日露戦争後は個人の自覚が顕著となり、狭隘《きょうあい》なる愛国心よりたちまち目醒めて、世界的の広大なる精神が俄然発達し、ある者は特に社会問題に深大なる注意を払うようになってきたのである。それで、明治三十八年をもって思想界に一時期を劃したものということもまた一つの見方であろうと思う。マア大きくみればかかる小さな区別はさほど重要でないかもわからぬけれども、しばらく便宜のためにこういう三つの区別を立てて明治の哲学を論ずることにしようと思う。
三
それからして、明治の哲学思想、それについで大正の哲学思想、これを通じて二つの大きなちがった系統があると思う。それはもとよりどこの国にもおのずからあるけれども、明治以前にはほとんど無くし
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