っても、飴を食っても、故障の起らないような入歯が、今頃は出来ているのではあるまいか。
 そうではないか、と思わせるだけの根拠は、外の方面にいくらでもありはしないか。
 日本人は、日本人の生活を基礎にした文化をこしらえなければならない。地震のある国は、地震のあるだけの建築をしなければならないし、餅をかじる人間は、餅をかじるような入歯をこしらえなければならないように、日本人は日本人の文化を組立てて行かなければならないのではないか。
 餅は食わないことにすればいいかもしれないが、地震をなくすることは困難である。いかにアメリカ人になりたがっても、過去二千余年の歴史は消されない。
[#地から1字上げ](大正十三年七月『週刊朝日』)



底本:「寺田寅彦全集 第三巻」岩波書店
   1997(平成9)年2月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:noriko saito
2004年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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