専門学者から見ると、自分の専門に関する事柄が、目の前に大きく拡がって、それに直接関しない事柄は、きわめて小さく見え、あるいはまるで眼につかなかったりする事がある。これも分り切った事である。そして、それはそれで、差しつかえない。
 しかし、後進を誘掖《ゆうえき》する地位にいる時には、この事は注意しなければならない。自分が重要と考える問題は、必ずしも唯一な重要問題ではない。自分が見て軽小に見える事柄の内に、他人が見た時に、同じくらい重大なものが含まれているかもしれないということを忘れてはならない。
 恐ろしくつまらないと思われる事柄の中から、非常に重大なものの出現する例は基礎科学の世界にはいくらでもある。
「つまる」と「つまらない」とは、物に属しないで人に属する。つまらない事から、つまる事を掘り出すこともあれば、つまる問題からつまらない事のみ拾い出すこともしばしばである。
 科学の教育に当るものは、この一事を忘れてはならない。そして、後進の興味の赴くところに従って、自由な発育を遂げさせなければならない。

         十七

 入歯をこしらえた。
 何年来食ったことのなかった漬物な
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