が濃いのが多いという事である。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月三十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         四十八

      寒さと尿量

 寒い時に三時間運動せずにいると尿酸の排出量が平日の五割増す。しかし筋肉を運動させていれば一割強くらいしか増さぬ。これに反して暖かに着物を着て盛んに運動すれば却って三割くらい減ずる。それで尿酸の分泌の幾分は体熱の損失に対する反応として起るものだろうという。

      新発明の耳喇叭《みみらっぱ》

 スウェーデン政府の電話局で近頃発明された耳喇叭は交換手の耳にさし込んで通話をするためのものであるが、これはまた耳の遠い人のためにも重宝なものであるそうな。この器械の電線は耳の背後などに隠せば少しも目に立たぬそうである。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月一日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         四十九

      宝石の人造法

 近頃仏国のポルダという人が鋼玉石《こうぎょくせき》の粉を変じて種々の宝石とする方法を発見した。すなわちこの鉱石の砕片をラジウムと一緒に一ケ月も管に入れておけば、あるいは黄色なトッパズになり、あるいはルビー、サッファヤ等種々の宝石に変るそうである。この法で作った宝石をその道の目利きに見せたら真贋の区別が出来なかったという。従来各種の鉱物または硝子《ガラス》などがラジウムのために変色する事はよく知られていたが、今度の発見が確かなればよほど著しい事と云わねばならぬ。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月十六日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十

      濃霧を消散する新案

 ロンドンは霧の名所であるそうなが、近頃マジョラという人がこの霧を消す新案をして気象台でこれに関する研究をしているそうな。その法はと聞いてみるとずいぶん大仕掛けなものである。直径六フィート、高さ六十フィートの鋼鉄製の大砲を作り、その中でアセチリンその他の瓦斯《ガス》を爆発させ空気に劇動を起させる趣向だという。遠からずこの研究に関する報告が出るはずになっている。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月十七日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十一

      坑夫に賞牌

 英皇エドワード陛下は今度新たに二種の賞牌を制定せられた。これは鉱山の坑夫などで多数の人の生命を救い危険を除くために自分の生命を賭した者に授与するはずだという。その綬《リボン》は青に黄の縁《ふち》を取ったもので一等二等に区別されてあるそうな。

      結核病研究の万国会議

 来年九月二十一日より十月十二日まで米国ワシントン府で表題の会議が開かれる。全体七部門に分れて、結核に関する病理、療法、予防その他一切の会議をするはずで、また開会中は該病に関する展覧会を開いて公衆に観せるそうである。[#地から1字上げ](明治四十年十二月十八日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十二

      ペストと蚤

 ペストと云えば鼠を聯想するが、鼠族の間にこの病毒を拡めるものは蚤だという事がだんだんに確かめられるらしい。ある人が天竺鼠《てんじくねずみ》について試験したところによれば、たとえ健全なのと病にかかっているのとを接近させぬようにしておいても蚤が移ると感染する。また健全な方を籠に入れて吊しておいても、蚤が飛び上がる事の出来るくらいの高さに吊したのではやはり感ずるが、それ以上高くするか、また細かい網に入れて蚤の出入りせぬようにしておけば伝染せぬという。もし鼠が人間なら捕蚤《ほそう》の懸賞でもするところだろう。ついでにペストの本家本元たるインドでは宗教上の迷信から殺生を絶対的に忌むので、鼠狩りの実行が甚だ困難なようである。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月十九日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十三

      人造藍と天然藍

 藍《あい》を人工的に合成する法が出来て以来、人造藍の需要が増すにつれて天然藍の産額が減ずる傾向をもっているのは著しい現象である。例えば天然藍の産地たるインドではこの二、三年の間に藍の栽培面積が半分以下に減少してしまった。また英国では一昨年と昨年との比較統計によると人造藍の輸入高が二割ほど増し、これに反して天然藍の方は七分くらいの減額を示している。しかしまだまだ天然のが人造のに圧倒されるところまでには月日がある。栽培法や製法の改良を加えて行けば、天然藍も当分市場に立ちゆかれる見込みだという。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十四

      水晶の鋳物

 水晶は硝子《ガラス》とちがって容易に火熱のために融けぬから、これで種々の器物を製するは困難であった。しかるに先年来は酸水素吹管で水晶の小片を熔かして細い棒とし、これを沢山に熔かし合せて管やフラスコを作る事が出来るようになった。近頃また電気の熱で勝手な形の瓶などを作る法が発明されたそうである。その法は先ず鋳型の中へ水晶の粉を詰め、その中に炭の棒を挿し込んでこれに強い電流を送り、粉が熔けた時に型の口から空気を吹き込めばよいという事である。いったん熔かした水晶製の器物は耐火力が強く、また熱のために破れる憂いがない。真赤になるほど焼いたのを冷水中に投じても何の異状もないというのが特長である。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十七日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十五

      巨船モーレタニア

 先日ルシタニア号の話を掲げたが、その姉妹船モーレタニア号に関する概略の数字だけ比較のために挙ぐれば、船の長さ七百六十フィート、幅が八十八フィート、トン数三万二千。乗客の数は一等五百六十三人、二等四百六十一人、三等千百三十八人、試運転の平均速度二十六浬《かいり》三である。

      女優と無線電信

 有名な仏の女優サラ・ベルナールは近頃北米と欧洲との間に開通された無線電信について次のような事を云っている。「このようにヨーロッパとアメリカとが虚空を距《へだ》てて睦まじく接吻するようになったのは科学の力の最も詩的な表現である」と。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十八日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十六

      天然色写真

 先日本紙に載せてあった天然色写真の新法よりなお一層新しい法が見出された。それはウワーナー・ポオリーの法と云うので、去る十月ロンドンで開かれた天然色写真会で展覧に供した。先日のリュミエール会社のオートクローム板は三色の澱粉を混合して作ったものだが、今度のは種板の上に三色の細い線を並べたもので大体の理窟は前のと変りはない。色のついた線を作るには細い格子のようなものと護謨《ゴム》写真と同じ法で板に写しこれを染めるのである。この種の写真では色はよく出ても一体に暗くなるのが欠点であるが、ポオリー氏は特別な仕掛けでこれを照らし一体を明るく見せるようにしたという事である。前のと今度のとの優劣は現物を較べてみねばわからぬ。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十九日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十七

      婦人と動物学者

 テキサス大学のモントゴメリー教授は、衣服その他の粧飾に鳥類の羽毛を使用する事を絶対的に禁じたいと論じている。単に米国で鳥の濫殺を禁ずるのみならず、輸入もやめなければ無効である。鳥の捕獲が盛んになればますます羽毛が安くなり使用高が次第に増して結局は鳥の種類が絶えるようになるだろうと云っている。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月三十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十八

      蜂に螫《さ》された時

 アンモニア水が蜂の針の毒を消す事はよく人の知る処であるが、ある人の経験では、それよりも幾那《キニーネ》をアンモニア水に溶かした丁幾《チンキ》が一層有効だそうである。

      火山の変形

 昨年四月イタリアのヴェスヴィアス山がやや烈しい噴火をやったが、その後同国陸軍地理局で測量を行った結果によると、噴火前における最高点の高さ海抜千三百三十五メートルあったのが千二百二十三メートルに減じている。その代りに地獄谷《ウアルレデルインフェルノ》などという窪みは五メートルないし五十メートルの高さに埋められたそうである。
[#地から1字上げ](明治四十一年一月一日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十九

      結核病と食物

 結核菌を接種した動物に種々の食物を与えて病の経過を試験した結果によると、脂肪分を主に与えたものは四十日くらいで死し、含水炭素殊に砂糖を多く与えたものは八十七日くらいで死んだ。これに反して含窒素食物を主に食わせた動物は三百七十一日生きていたそうである。
[#地から1字上げ](明治四十一年一月二十五日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十

      灯台の光色

 海上で遠い灯台を見出した時その光の色が赤だか青だか分りにくい事がある。その時は双眼鏡か何かで見て肉眼で見たのと比較し、もし肉眼で見る方がよく見えればその灯色は赤光で、そうでなければ青か白だという。

      屍体とX光線

 生きている人体の腹部をX光線で照らし写真を撮っても胃や腸を識別する事が出来ぬが、死後間もなく写して見ると明らかにこれらの臓腑の所在《ありか》がわかる。そして死後時間が経つに従っていよいよ明白になる。生きているうちは内臓が絶えず動いているから写らぬのだろうという説になっているらしい。
[#地から1字上げ](明治四十一年一月二十六日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十一

      猿と蛇

 いろいろの動物について試験してみると、蛇を怖れるは猿猴《えんこう》の類に限る、但しその中で狐猿《きつねざる》という一種のみは蛇をしかけても平気だという。

      窒扶斯《チフス》菌の寿命

 北米シカゴ市ではミシガン湖から用水を取っているので市中の下水を湖水に流し込む訳に行かぬ。それで下水|溝渠《こうきょ》はすべてこれをミスシッピイ河に放流してしまうようになっている。ところでその下流なるセントルイ市で窒扶斯が蔓延し、これはシカゴの病菌が下水とともに河を下って来るためだろうというところからやかましくなり、その結果、窒扶斯菌が水中で幾日間生きているものかという問題を研究せねばならぬ事になった。そこで色々試験をしてみた結果だというのを聞いてみるに、普通下水溝渠のごとき汚水中では精々四日間くらいしか生きていぬが、水が清浄なほど永く生きているそうである。しかし日光がよく当ればそれだけ早く死ぬる。いずれにしてもシカゴからセントルイまで三百二十二マイルの流れを下るには十一日くらいかかるから、この間には病菌は大抵死滅するだろうという事に帰着したようである。ついでに人体や湿土中における該菌の寿命は数週ないし数月にもわたるという。
[#地から1字上げ](明治四十一年一月二十七日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十二

      迅速なるX線写真

 従来X線で人体の内部などを写真するに当って一つの欠点は照射時間の長い事である。つまり早撮りが出来ぬから運動している臓腑を写す事が出来ぬ。もしこの早撮りが成効すれば体中の活動写真が撮れる事になるのである。しかるに近頃ローゼンタールは特別な感応コイルを発明し、これによってX線を生ずれば喉頭の写真をわずか二秒間で撮る事が出来るという事を発表した。もう一息早くなれば遂には内臓の活動写真も出来るだろうと思われる。
[#地から1字上げ](明治四十一年一月三十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十三

      
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング