ておけば伝染せぬという。もし鼠が人間なら捕蚤《ほそう》の懸賞でもするところだろう。ついでにペストの本家本元たるインドでは宗教上の迷信から殺生を絶対的に忌むので、鼠狩りの実行が甚だ困難なようである。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月十九日『東京朝日新聞』)
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         五十三

      人造藍と天然藍

 藍《あい》を人工的に合成する法が出来て以来、人造藍の需要が増すにつれて天然藍の産額が減ずる傾向をもっているのは著しい現象である。例えば天然藍の産地たるインドではこの二、三年の間に藍の栽培面積が半分以下に減少してしまった。また英国では一昨年と昨年との比較統計によると人造藍の輸入高が二割ほど増し、これに反して天然藍の方は七分くらいの減額を示している。しかしまだまだ天然のが人造のに圧倒されるところまでには月日がある。栽培法や製法の改良を加えて行けば、天然藍も当分市場に立ちゆかれる見込みだという。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         五十四

      水晶の鋳物

 水晶は硝子《ガラス》とちが
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