てスピツバーゲンに吹き戻された。そこで止むを得ず瓦斯を抜き無事に地上に下りるを得た。残念ながら今年は失敗に終ったが、しかし今年の実験でこの気球が少々の風には逆らって疾走し得る事を確かめたから、更に来年の夏を待って再挙を計るはずだという。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月十日『東京朝日新聞』)
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         三十五

      気球の競走

 先々月ベルギーの首府で開かれた万国の気球研究者の会で高価な盃を懸賞にして気球の競走をやらせた。この競走に加わった気球は三十四あったが、最長の距離に達して月桂冠を得たのはドイツの気球で丁度千キロメートルを航した。それに次ぐべき距離に達したのはスイスのと英国のとであったという。来年はロンドンでこの会を開くとの事である。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月十一日『東京朝日新聞』)
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         三十六

      ドイツの製粉研究所

 ドイツ人がすべての工業の発達を計るためにその根本たる科学的の研究に注意する事は今に始めぬ事だが、今度また麺麭粉《パンこ》の研究所を新たに設立し既設の製糖並びに醸造
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