の後ただ結核病の診断にのみ用いられていた。すなわち結核の疑いある患者にこれを注射すると、もしそうであれば発熱などの反応を起すからわかるというのであった。しかるに今度仏国のカルメットという人の発表した所に拠ると、酒精《アルコール》で沈澱させたツベルクリンの一プロセント溶液を眼に点ずると、健康体ならば何の異状も起らぬが、少しでも結核のあるものならば、二十四時間内に充血して紅くなるという事である。千人近くの患者について試験をしてこの事を確かめたが、ある場合殊に小児などでは、他の方法でどうしても知れなかった結核の存在をこの法で見付けたと称している。
[#地から1字上げ](明治四十年九月二十六日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         七

      アフリカの杜鵑《ほととぎす》

 アフリカに、杜鵑の一種で俗名を「蜂蜜の案内者」と称する鳥が居る。蜜蜂の巣の所在を人に知らせるからこういう名が付いているのだそうな。しかるに近頃ある動物学者が調べた処によれば、この鳥は普通の杜鵑のように、他の鳥の巣へ自分の卵を産んで孵化させるのみならず、一層性の悪い事をする。すなわち巣の中にある他鳥の
前へ 次へ
全72ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング