、人夫が六人掛かりで半日にやっとする仕事を、この器械でやれば四人でわずか一時間に片付けてしまうそうである。

      米国の電話

 北米合衆国の電話に関する最近の統計を見ると、国柄だけに盛んな勢いを示している。千九百〇三年におけると三年後の千九百〇六年すなわち昨年の暮におけると、電話機の数も電線の延長もザット倍になっている。すなわち個数の三百八十万弱が七百十万余になり、電線の三百万マイル足らずが六百万余になっている。加入者の数は全人口に割り当てると二十八人に一人となる。一日中の通話の回数が驚くなかれ千六百九十四万とある。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二日『東京朝日新聞』)
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         十二

      風車《かざぐるま》の利用

 風の力の大きい事は云うまでもない。この力を原動力に利用して各種の作業をすれば利益があるだろうという事はよく人の考える事だが、ただ一つ困る事は、風は至って気まぐれ者で、思う時に思うように吹いてくれぬので、始終きまった馬力を要する器械にはちょっと使いにくい。しかしこれには蓄電池という都合のよいものがあって、風の力を電気の力に変じて蓄え、必要に応じて勝手に使う事が出来るのである。現に英国バーミンガムでは十一年前から風車で電灯を点じている人がある。その風車は直径三十五フィートでこれを五十フィートの櫓の上に据え付け、十六燭の電灯二百個を点ずる外に、なお五馬力のモートル三個を運転しているが、未だかつて停電などを起さぬという事である。石炭や水力を得難い土地では風車を用いた方が石油機関よりは利益だという。
[#地から1字上げ](明治四十年十月三日『東京朝日新聞』)
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         十三

      霧中の汽車信号

 鉄道線路の傍に巨人のごとく直立しあるいは片手あるいは両手を拡げて線路の安否を知らせる普通の信号標は、通常の天気ならば昼夜の別なく有効であるが、ただ霧が掛かって数歩の外は見え分かぬような日には何の役にも立たぬ。この不便と危険を防ぐため、近頃米国大西鉄道で採用する発音信号機というのは簡単な仕掛けであるが数ケ月間の試験によって有効な事が確かめられた。危険の時には汽笛、安全の場合には鐘を鳴らす事になっている。
[#地から1字上げ](明治四十年十月四日『東京朝日新聞』)
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