われなかったが警察官のいう事であるからそのとおりにむしり取ってしまった。
人並みに草花などの種を自分でまいてみると、はじめて雑草の不都合な事が少しわかって来るような気がした。打っちゃっておくと、せっかく生長させようと思う草花がすっかり負かされてしまうので、こうなると気の毒でも雑草のほうはむしるよりほかはない事になる。雑草という言葉の意味が始めてわかって来る。
郊外に家をこしらえた。春さきから一面にいろいろの草がはえ出る。中には花が咲きそろうとかなり美しいのもある。しかしまた途方もなく延びてしまって歩く事の邪魔になるのもある。かまわず打っちゃっておくとおしまいには家の内までも侵入しそうな勢いを示して来る。こうなるとさすがに雑草の脅威といったようなものを感じて、とうとう草刈りをはじめる決心をした。
草刈り鎌《がま》にいろいろの種類のある事を知ったのはその時である。鎌の使い方、鎌のとぎ方も百姓に伝授を受けていよいよ取りかかった。
刈り始めてみるとなかなか骨が折れる。よっぽど刈ったつもりでも、立ち上がって見ると手のひらぐらいしか進行していないのにがっかりした。しかしやっているうちにだん
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