しない。少なくも虞美人草はこのへんの民家の庭にあまり見受けなかった。そしてこの土地に珍しくない日々草《にちにちそう》などがかえってたんねんに抜き去られた。また一方珍しくないコスモスは取られないほうに属していた。
 あるいはこの三つの植物の繁殖力の旺盛《おうせい》な事に関する侵入者の知識がこの現象の原因になるかと思ってみたが、それもあまりに付会に過ぎた説明としか思われない。
 いろいろの花がいろいろの蝶《ちょう》や虫を引きつける能力についてはまだおそらく人間の知らない不思議な理由があるだろうと思うが、同様にいろいろの草花が子供の略奪趣味を刺激する効果の差別についてもまだ簡単な説明を許さない秘密な方則が伏在しているのではないかと思う。
 昆虫《こんちゅう》の研究者が蝶や蟻《あり》でも研究するように、この小略奪者たちの習性を研究する目的でいろいろの実験をしてみればきっとおもしろくまた有益だろうと思うが、自分にそれほどの暇も熱心もない。ただもう一二年たって、われわれ「東京者」に対する子供らの好奇心と反感のずっと減少した時分にもう一ぺん「花園の夢」を見るのもいいかと考えている。

     五 
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