次が「干鰯俵《ほしかだわら》のなまぐさき」である。この二つの歌仙は同年にできてはいるようであるが、この二つのものの中間にいかなる連中と何回いかなる連句を作っているかそれは私には全くわからない。しかし私の書き抜いた長短わずかに二十三句の中にこういう「魚鳥」複合といったようなものが三度までも現われているのは決して偶然とは思われない。たとえば利牛《りぎゅう》の句十八の中に鳥類は二度現われるが魚類は一つも現われないのである。
 史邦《ふみくに》の句三十八ばかりを書き抜いてすぐ気のついたことは「雨月」複合の多いことである。「月細く小雨にぬるる石地蔵」「酒しぼるしずくながらに月暮れて」「塩浜にふりつづきたる宵《よい》の月」「月暮れて雨の降りやむ星明かり」以上いずれも雨の月であるが、もう一つおまけに「傘《からかさ》をひろげもあえずにわか雨」というのがある。ここでは月の代わりに傘が出ている。それからこれは一見しただけではあまり明白ではないが、「寒そうに薬の下をふき立てて」「土たく家のくさききるもの」「よりもそわれぬ中は生かべ」「すり鉢《ばち》にうえて色つく唐がらし」少し逆もどりして別の巻「溝《どぶ》汲
前へ 次へ
全88ページ中69ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング