ンツェルトのように管弦が添うのが常である。合奏として見た連句で、三人ないし四五人までの共同制作になるものに比較さるべきものとしては各種のいわゆる「室内楽」がある。すなわち三重奏《トリオ》、四重奏《カルテット》、五重奏《クインテット》と称するのがそれである。二人だけの連吟はもちろん二重奏《デュエット》であるが、場合によっては一方が独奏で他方は伴奏のような感じを与えるものさえもないではない。
試みに芭蕉七部集をひもといて二三の実例について考えてみる。まず試みに「炭俵」上巻の初めにある芭蕉|野坡《やば》の合奏を調べてみると、「むめが香にのっと日の出る山路かな」の発句にはじまって、「屏風《びょうぶ》の陰に見ゆる菓子盆」の揚げ句に終わる芭蕉のパートにはいったいにピッチの高いアクセントの強い句が目に立つ。これに相和する野坡のパートにはほとんど常に低音で弱い感じが支配しているように思われる。「家普請《やぶしん》を春のてすきにとり付いて」(野)の静かな低音の次に「上《かみ》のたよりにあがる米の値」(芭)は、どうしても高く強い。そうして「宵《よい》の内はらはらとせし月の雲」(芭)と一転しているのは一見
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