まれる。ましてや連句の場合にこの音程に相当する付け味の数は言わば高次元の無限大である。これから見ても連句の世界の広大無辺なことをいくらでも想像することができるであろう。
 普通西洋音楽で一つのまとまった曲と称するものにいろいろの形式がある。たとえば三部形式と称するものでは、その名の示すように三つの相次ぐ部分から成立している。たとえば第一の部分がある旋律によって表わされた一つの主題《テーマ》であるとすれば、第二の部分はこれと照応しまた対比さるべきものであり、これに次いで来る第三すなわち終局部では再び前の主題が繰り返される。またソナタ形式ならば、第一主題、第二主題の次にいわゆる発展部が来てこれら主題に対する解答を試みる。これが活躍した後に、再び始めの第一、第二主題が繰り返されて終局するのである。今連句歌仙の三十六句をたとえば(表六句)(裏と二の表裏合わせて二十四句)(名残《なごり》の裏六句)と分けて、これを三部形式あるいはソナタ形式にたとえてみることもできないことはないが、この対比はそれほど適切とは思われない。
 上記のような形式から成る「楽章」をさらに三つ四つと続けていわゆるソナタやシン
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