えてみるとこの子規の言ったという言葉にも味わうべき点があるようにも思われて来るのである。実際俳句を並べただけでは決して連句はできないのである。そうかと言ってまた短歌連作の多数のものは連句とあまりに距離が大きい。しかし短歌連作をいろいろと開拓して行くうちにはあるいは一方ではおのずからいわゆる連歌の領域に接近し、したがってまた自然に連句とも形式ならびに内容において次第に接近して行くという事も充分可能である。他方ではまた、少なくも現在では連句とは全く別物と思われる連作の型式から進化して行って、そうして現在の歌仙などとはかなりちがった別種の連句形式が生ずるという可能性も想像されなくはない。われわれ連句を研究するものの興味は実に主としてこの点にかかるのである。それでわれわれにとっては、こういう目をもっている短歌連作の進化の歴史を追跡することも決して無用ではあるまいと思われるのである。
以上は一時の思いつきのようなものに過ぎないのであるが、一つの研究題目を提出するような意味で、思ったままをここにしるしてあえて読者の教えをこうことにした。もしさらに短歌の研究者の側から見たこの問題に対する意見を聞くことができれば教えられるところが少なくないであろうと思うのである。
[#地から3字上げ](昭和六年十二月、渋柿)
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以上に続いてまだいろいろ書くつもりであったのが都合で一時中止したままになっている。他日機会があったらもう少し補充してまとめたいと思っているが、本書所載の他の論文にしばしば引き合いに出ている関係上参照の便宜のためにこのままここに採録した次第である。
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底本:「寺田寅彦随筆集 第三巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年5月15日第1刷発行
1963(昭和38)年4月16日第20刷改版発行
1997(平成9)年9月5日第64刷発行
※作品末の一節は、随筆集「蒸発皿」(1933(昭和8)年)刊行にあたって、追記されたものです。
入力:(株)モモ
校正:かとうかおり
2003年6月25日作成
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