は鉄の弾性とか磁性とかいうことを平気で言って、その「鉄」を作る微晶や固溶体のプランクトンの人別調べは略していた。何万ボルトの電撃という一語であらゆるサージの形を包括していた。放電間隙《ほうでんかんげき》と電位差と全荷電とが同じならばすべてのスパークは同じとして数えられた。すなわちわれわれはやはり量を先にして質をあとにしていたのであった。このある日の経験は私に有益であった。われわれが平生あまりに簡単に質的量的ということを考え過ぎているということを痛切に反省させられたのであった。
以上未熟な考察の一部をしるして貴重なる本誌の紙面をけがし読者からのとがめを招くであろうことを恐れる。紙数の限りあるために意を尽くさない点の多いのを遺憾とする。ただ量的にあまりに抽象的な、ややもすれば知識の干物の貯蔵所となる恐れのある学界の一隅《いちぐう》に、時々は永遠に若い母なる自然の息を通わせることの必要を今さららしく強調するためにこんな蕪辞《ぶじ》を連ねたに過ぎないのである。若くてのんきで自由な頭脳を所有する学生諸君が暑苦しい研学の道程であまりに濃厚になったであろうと思われる血液を少しばかり薄めるための一
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