cibility という概念にも根本的な革命をもたらしたように見える。今まではなるべくなら避けたく思った統計的不定の渾沌《こんとん》の闇《やみ》の中に、統計的にのみ再現的な事実と方則とを求めるように余儀なくされたのである。しかもそういう場合の問題の解析に必要な利器はまだきわめて不備であって、まさにこれから始めて製造に取りかかるべきである。このような利器のあるものはすでに偉大な現代学者の手で創成されたとは言え、これですべてが終わったとはどうしても考えられないようである。
 こういう時代において、それ自身だけに任せておくととかく立ち枯れになりやすい理論に生命の水をそそぎ、行き詰まりになりやすい抽象に新しい疎通孔をあけるには、やはりいろいろの実験が望ましい。それには行ない古したことの精査もよいが、また別に何かしら従来とはよほどちがった方面をちがった目で見るような実験的研究が望ましい。ことにこの眼前の生きた自然における現実の統計的物理現象の実証的研究によって、およそ自然界にいかに多様なる統計的現象がいかなる形において統計的に起こっているかを、できるならば片端から虱《しらみ》つぶしに調べて行って
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