亮の追憶
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)亮《りょう》の一周忌

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昨日|青山《あおやま》の宿から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](大正十一年五月、明星)
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 亮《りょう》の一周忌が近くなった。かねてから思い立っていた追憶の記を、このしおに書いておきたいと思う。
 亮は私の長姉の四人の男の子の第二番目である。長男は九年前に病死し、四男はそれよりずっと前、まだ中学生の時代に夭死《ようし》した。昨年また亮が死んだので、残るはただ三男の順《じゅん》だけである。順はとくにいでて他家を継いでいる。それで家に残るは六十を越えた彼らの母と、長男の残した四人の子供と、そして亮の寡婦とである。さびしい人ばかりである。

 亮の家の祖先は徳川《とくがわ》以前に長曾我部《ちょうそかべ》氏の臣であって、のち山内《やまのうち》氏に仕えた、いわゆる郷士であった。曾祖父《そうそふ》は剣道の師範のような事をやっていて、そのころはかなり家運が隆盛であったらしい。竹刀《しない
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