。埠頭《ふとう》から七マイルの仏寺へ向かう。途中の沼地に草が茂って水牛が遊んでいたり、川べりにボートを造っている小屋があったり、みんなおもしろい画題になるのであった。土人の女がハイカラな洋装をしてカトリックの教会からゾロゾロ出て来るのに会った。
 寺へ着くと子供が蓮《はす》の花を持って来て鼻の先につきつけるようにして買え買えとすすめる。貝多羅《ばいたら》に彫った経をすすめる老人もある。ここの案内をした老年の土人は病気で熱があるとかいってヨロヨロしていたが菩提樹《ぼだいじゅ》の葉を採ってみんなに一枚ずつ分けてくれた。カンジーにあるという仏足や仏歯の模造がある。本堂のような所にはアラバスターの仏像や、大きな花崗石《みかげいし》を彫って黄金を塗りつけた涅槃像《ねはんぞう》がある。T氏はこれに花を供えて拝していた。
 帰途に案内者のハリーがいろいろの人の推薦状を見せて自慢したりした。N氏の英語はうまいがT氏のはノーグードだなどと批評した。年を聞くと四十五だという。われわれは先祖代々の宗教を守っているのに、土人の中には少し金ができるとすぐイギリス人のまねをして耶蘇信者《やそしんじゃ》になるのがあ
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