寝の夢のような気がした。
 植物園へはいる。芝生《しばふ》の上に遊んでいた栗鼠《りす》はわれわれが近よるとそばの木にかけ上った。木の間にはきれいな鳥も見かける。ねむの花のような緋色《ひいろ》の花の満開したのや、仏桑花《ぶっそうげ》の大木や、扇を広げたような椰子《やし》の一種もある。背の高いインド人の巡査がいて道ばたの木の実を指さし「猿《さる》が食います」と言った。人糞《じんぷん》の臭気があるというドリアンの木もある。巡査は手を鼻へやってかぐまねをしてそして手をふって「ノー・グード」と言い、今度は食うまねをして「ツー・イート・グード」と言う。動物はいないかと聞いたら「虎《とら》と尾長猿《おながざる》、おしまい、finished」といった。たぶん死んだとでもいう事だろうと思った。
 水道の貯水池の所は眺望《ちょうぼう》がいい。暑そうな霞《かすみ》の奥に見える土地がジョホールだという。大きな枝を張った木陰のベンチに人相の悪い雑種のマライ人が三人何かコソコソ話し合っていた。
 市場へ行く。玉ねぎや馬鈴薯《ばれいしょ》に交じって椰子の実やじゃぼん、それから獣肉も干し魚もある。八百屋《やおや》がバ
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