のように吹き出した。それを引きずり引きずり高い葉へ高い葉へと登って行った。その間にも噛みこなす事は休まず続けているので、毛虫の形はだんだんに消えて緑がかった黒色の塊に変りつつあった。そのうちに蜂は一度羽根を拡げて強く振動させた、おそらく飛び上がろうとしたのであろうが、虫の重量はこの蜂の飛揚力以上であったと見えて少しも動かなかった。どうするかと思っていると、このやや長味のある団塊をうまく二つに食い切って、その片方を丁寧に丸めた後に、それを銜《くわ》えて前日と同じ方向へ飛んで行った。
立ち際にその尾部から一、二滴の透明な液体を分泌するのがよく見えた。おそらく噛みながら吸い取った毛虫の汁で腹が膨れた結果かもしれない。
残りの半分を今に取りに来るのではあるまいかと思ったので、ものの十分ほども待っていたその間に全く別の方向から同じような蜂が飛んで来て薔薇の上をしばらくあさっていたが、さっきの団子の残りの半分のつい近くまで行っても気付かないで、そのうちどこかへ飛んで行ってしまった。
二時間もたって見に行った時には、毛虫の半分の団塊はもうなくなっていた。それは何物が持ち去ったかよくは分らない。
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