だ漠然とした形である種の科学者の頭の奥底のどこかに生き残って来た。
 しかしそういう方法によって進歩して来た結果はかえってその方法自身を裏切る事になった。物質の不連続的構造はもはや仮説の域を脱して、分子や原子、なおその上に電子の実在が動かす事の出来ないようになった。その上にエネルギーの推移にまでも或る不連続性を否《いな》む事が出来なくなった。生物の進化でも連続的な変異は否定されて飛躍的な変異を認めなければならないようになった。
 水の流れや風の吹くのを見てもそれは決して簡単な一様な流動でなくて、必ずいくらかの律動的な弛張がある、これと同じように生物の発育でも決して簡単な二次や三次の代数曲線などで表わされるようなものではない。
 例えば昆虫の生涯を考えても、卵から低級な幼虫になってそれがさなぎ[#「さなぎ」に傍点]になり成虫になるあの著しい変化は、昆虫の生涯における目立った律動のようなものではあるまいか。
 人間の生涯には、少なくも母体を離れた後にこのように顕著な肉体的の変態があるとは思われない。しかしある程度の不連続な生理的変化がある時期に起る事もよく知れ渡った事実である。蚕《かいこ》
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