や蛇が外皮を脱ぎ捨てるのに相当するほど目立った外見上の変化はないにしても、もっと内部の器官や系統に行われている変化がやはり一種の律動的|弛張《しちょう》をしないという証拠はよもやあるまいと思われる。
そのような律動のある相が人間肉体の生理的危機であって不安定な平衡が些細《ささい》な機縁のために破れるやいなや、加速的に壊滅の深淵に失墜するという機会に富んでいるのではあるまいか。
このような六《むつ》ヶしい問題は私には到底分りそうもない。あるいは専門の学者にも分らないほど六ヶしい事かもしれない。
それにしても私は今自分の身体に起りつつある些細な変態の兆候を見て、内部の生理的機能についてもある著しい変化を聯想しないではいられない。それと同時に私の心の方面にもある特別な状態を認め得るような気がする。それが肉体の変化の直接の影響であるか、あるいは精神的変化が外界の刺戟《しげき》に誘発されてそれがある程度まで肉体に反応しているのだか分らない。
厄年の厄と見做されているのは当人の病気や死とは限らない。家庭の不祥事や、事業の失敗や、時としては当人には何の責任もない災厄までも含まれているようであ
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