明治三十二年頃
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)不折《ふせつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)正岡|子規《しき》の家へ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年九月『俳句研究』)
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 明治三十二年に東京へ出て来たときに夏目先生の紹介ではじめて正岡|子規《しき》の家へ遊びに行った。それとほとんど同時に『ホトトギス』という雑誌の予約購読者になったのであったが、あの頃の『ホトトギス』はあの頃の自分にとっては実にこの上もなく面白い雑誌であった。先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折《ふせつ》、黙語《もくご》、外面《とのも》諸画伯の挿画や裏絵がまたそれぞれに顕著な個性のある新鮮な活気のあるものであった。現在のようなジャーナリズム全盛時代ではおそらく大多数のこうした種類の挿画や裏絵は執筆画家の日常の職業意識の下に制作されたものであろうと思うが、あの頃の『ホトトギス』の上記の画家のものはいかにも自分で楽しみながら描いたものだろうという
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