蓑田先生
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)啓示《アポカリプス》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くた/\
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 明治二十七八年の頃K市の県立中学校に新しい英語の先生が赴任して来た。此の先生が当時の他の先生達に比較してあらゆる点で異彩を放つて居た。第一に年が若くて生徒等の兄さん位に見えた。さうして年取つて黒く萎びた先生や、堂々とした鬚を立てた先生等の中に交つた此の白面無鬚の公子の服装も著しくスマートなものであつた。ズボンの折目がいつでもキチンと際立つて居るだけでも周囲のくた/\のホーズとは類を異にして居た。さうして教員室から教場へ来る迄の廊下を必ず帽子をかぶり、冬なら外套を着て歩いて来た。教場へはいつてから其の黒い中折帽子をとつて机の上におき、寒いと外套は着たまゝで授業を始めるのであつた。金縁の眼鏡を一つしやくり上げてさうして劇しく眼ばたきをして「ウェル……」といつて始めるのであつた。
 生徒等は、此の未だかつて見たことのないタイプの先生を、どう取扱つてよいかに迷つたやうに見えた。尊敬してよいのか、軽
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