か。数学的の興味は十分にあるとしても自然科学とは交渉の少ないものであろう。実際は幸か不幸かそうでない。化学的現象は勿論の事、ブラウン運動等の研究はますます分子原子の実存を証するようになり、真空管や放射性物質の研究はどうしても電子の存在を必然とするようになって来た。人間が簡単を要求しても自然はそれには頓着しない。ただ複雑な変化の微小な事、またポアンカレーの謂《い》うごとく複雑さが十分複雑であるために「偶然の方則」が行われ、多くの場合には簡単な平均的の云い表わしを抽象的に考える事が出来るのであろう。
それで方則の云い表わす言葉は不変でもその意味は場合によって色々に考えられるのである。これは方則の中に含まれた概念の変化であって、それが元来云い表わす当面の事実の変化ではない。ただこの概念の変化によって新しい事実の発見されるごとに一々新しい方則を捻出する事が避けられるのである。
一口に方則とは云うものの物理の方則でも色々の種類がある。フックの方則、ボイルの方則などのように適用の範囲の明白に限定されているものもあり、重力の方則、クーロンの方則のごときよほど普遍的なものもある。近似的の方則をどこ
前へ
次へ
全19ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング